ビタミンB1の欠乏によって引き起こされるといわれているWernicke脳症(ウェルニッケ脳症)について解説します。回復期リハビリテーション病棟を中心に勤務し、10年以上の臨床経験のある私も何症例か経験しましたので珍しい疾患ではないと思います。しっかり学んでおきましょう。本記事では、Wernicke脳症の原因と症状や脚気、Korsakoff症候群(コルサコフ症候群)についても解説します。
目次
Wernicke脳症(ウェルニッケ脳症)とは
Wernicke脳症は、ビタミンB1の欠乏によって引き起こされる神経障害です。主な原因は慢性アルコール中毒、胃切除などの消化管手術後、低栄養状態(特にビタミンB1)などで引き起こされます。ビタミンB1欠乏により中枢神経障害を呈するのがWernicke脳症、末梢神経障害を呈するのが脚気です。
症状
Wernicke脳症は、次の3つの徴候が特徴になります。
- 意識障害
- 眼球運動障害
- 運動失調
①意識障害は傾眠、せん妄、混乱、記憶障害など多様です。
②眼球運動障害は外転障害、眼振などが多く、進行すると全外眼筋麻痺にもなります。※アルコール多飲者が全眼球運動障害を呈していたらウェルニッケ脳症を疑います。
③運動失調は体幹失調が主であり、失調性歩行(両足を開き、酔っ払ったように全身動揺させる)を認めることがあります。
脚気には、全身がだるくなったり、手足がしびれる、下肢のむくみ(浮腫)などの多発性末梢神経障害がみられます。膝蓋腱反射が減弱または消失することもあります。
治療
治療は、速やかなビタミンB1の高用量投与があげられます。早期治療が重要であり、栄養補助や適切な食事摂取も必要となります。
Korsakoff症候群(コルサコフ症候群)
Korsakoff症候群(Korsakoff症候群)とは、頭部外傷などに伴う意識障害からの回復期、アルコール中毒やビタミンB1欠乏でみらることがあります。特にWernicke脳症は速やかなビタミンB1の補充により回復が見込めますが、治療開始が遅れるとKorsakoff症候群をきたすことや死に至ることもあります。Wernicke脳症に続いてKorsakoff症候群を生じる場合、WernickeーKorsakoff症候群とも呼ばれます。
症状として、
- 記銘力障害
- 見当識障害
- 作話 を特徴とする健忘がみられます。
国家試験問題
理学療法士・作業療法士国家試験では、問題数は少ないですが、以下の問題が出題されています。アルコールに関連した問題が多いため、詳しくはアルコールについて別記事で解説しますので、今回は、Wernicke脳症の問題のみ解説します。
第52回午前98 アルコールの離脱症候群はどれか。2つ選べ。
1. 病的酩酊
2. けいれん発作
3. 複雑酩酊
4. 振戦せん妄
5. Wernicke 脳症
解説
5のWernicke脳症はアルコールの離脱症状ではなく、アルコールに関連したビタミンB1の欠乏によって引き起こされる疾患ですので×となります。正解は2と4です。
第50回午後96 アルコール依存症に関連が少ないのはどれか。
1. ペラグラ脳症
2. Cotard 症候群
3. Wernicke 脳症
4. Liepmann 現象
5. Korsakoff 症候群
解説
1のペラグラ脳症はアルコール依存症、胃切除などでニコチン酸(ビタミンB群の一種)の欠乏によって引き起こされるといわれ、×となります。詳しくは以下のビタミン欠乏症について解説していますのでぜひ読んでみてください。3と5は本記事通り、アルコールに関連するため、×となります。正解は2です。
理学療法士・作業療法士国家試験の問題としては、アルコールの関連について問われる問題が出題されています。