障害受容とは、障害を持つ人が自分自身や自身の状況を受け入れるプロセスです。患者のリハビリテーションや生活の質を向上させるため、障害受容は重要な要素になります。また、理学療法士・作業療法士の国家試験には一部ですが、出題されやすい内容ですので、必ず押さえておきたい内容です。本記事では、国家試験対策での障害受容について解説します。
目次
障害受容の重要性
患者が障害を受け入れることは、なかなか難しいことであり、私自身も何かの障害を負った際に新しい現実、環境に適応するのは容易くないと思います。しかし、これを受容することで、リハビリへの取り組みや周囲の人々との関係が改善し、社会参加が促進されることもあります。
障害受容は一言では説明しにくいのが現状で定義などはあるものの、誤解のある使われ方がされていることも散見されます。
田島明子氏1)は”今から 20 年以上前、作業療法士の養成校でこの言葉を習った。養成校を卒業し、ある福祉施設で働きだしたとき、支援者の間で「〇〇さんは障害受容ができていない」という言葉が自然と使われていることに気がついた。その言葉は利用者本人に対しては使っておらず、会議や症例報告会などで支援者側だけで使用していた。その施設では障害のある人の就労支援も行っており、一般就労にするか、福祉的就労にするかの判断をしていた。あるとき会議の中で「〇〇さんは障害受容ができておらず、一般就労にこだわっている」という発言があり、周囲も「それは困りましたね」と納得していた。「○○さんは、障害があるのに一般就労をしたいと思っており、あきらめが悪い」というニュアンスに聞こえた筆者は違和感を覚えた。「障害受容」という言葉を使い、自分たちの支援の限界を正当化しているように感じたからである。”とある特集で伝えていました。これは他の現場でも同じような会話がされているのではないかと思います。私もほぼ同じようなことに遭遇したことがありますし、もしかしたら、私も別の事例で同じようなことをしているのかもしれません。障害受容とはこれだけ、簡単に使用されていますが、もっと考えられて使用されるべき言葉といえます。
国家試験で出題される障害受容
前置きが長くなりましたが、本記事では、障害受容という壮大なテーマに答えるものではなく、理学療法士・作業療法士の国家試験に対応できる範囲で解説していきます。
障害受容は以下の5つの課程になります。
①ショック期
障害発生直後で肉体的苦痛と心理的平穏(感情鈍麻)が共存する状態です。
②否認期
身体的に安定し、障害が容易に治らないことを理解し始める。
心理的な防衛規制として起こりがちです。防衛機制に関しては以下の記事で詳しく解説していまいすのでご覧ください。
③混乱期
自分に起きている現状と障害が完治しない可能性を否定しきれなくなった状態です。
反応として、
・外向的、他罰的(他人の責任にし、怒りや恨みをぶつける)
・内向的、自罰的(自分を責め、悲観や抑うつ状態になる) などがあげられます。
④努力期
前向きな努力が主となる時期です。
混乱期からの移行期には、外向的、他罰的(他人の責任にする)な攻撃では解決せず、内向的、自責が主であり、自分で努力しなければならないことを悟っていきます。
この時期には、同じような障害仲間からの励ましは効果的といわれています。
⑤受容期
障害を自らの個性の一部として受け入れることができる。
国家試験問題
理学療法士・作業療法士国家試験では、以下の問題が出題されています。障害受容に関しては、近年、出題率が上がっています。出題される可能性が高い問題ですので、確実に正答したい問題です。
第58回午前80 障害受容に至る5つの過程において2番目に現れるのはどれか。
1. 解決への努力期
2. ショック期
3. 混乱期
4. 受容期
5. 否認期
第57回午後81 障害受容に至る5つの過程において3番目に現れるのはどれか。
1. 解決への努力期
2. ショック期
3. 混乱期
4. 受容期
5. 否認期
第56回午後79 障害受容に至る5つの過程において、一般的に2番目に現れるのはどれか。
1. 混乱期
2. 受容期
3. 否認期
4. ショック期
5. 解決への努力期
解説
障害受容の過程として①ショック期、②否認期、③混乱期、④努力期、⑤受容期となっています。3年連続で出題されていますので、覚えておきましょう。
第54回午後79 障害受容で誤っているのはどれか。
1. 社会環境によって影響される。
2. 障害者同士の交流により促進される。
3. 抑うつ状態の患者には積極的な指導を行う。
4. 混乱している患者の怒りは医療者にも向く。
5. ショックを受けている状態の患者は安全に見守る。
解説
障害受容には1や2のように環境や障害者同士の交流も重要です。5のショック期では身体的苦痛が主であり、患者の安全が大切です。4の混乱期には他人に怒りの感情をぶつけることもあり、医療者も例外ではありません。3の抑うつ状態の患者には積極的に指導は必要なく、見守るようにします。
【参考および引用文献(引用は一部改変)】
1.田島明子氏:障害受容について考える―支援の場面からの一考察―,Jpn J Rehabil Med 2020;57:913-919